叡智を結集し、

海外ビジネスの拡大に挑む

東京メトロの事業フィールドは、いまや海外にも大きく広がろうとしている。将来に向けての成長戦略を示した中期経営計画「東京メトロプラン 2024」においても、「海外鉄道ビジネスの拡大」を重点施策の一つに掲げている。では、東京メトロはどのようにして海外の鉄道市場を開拓しようとしているのか。そのミッションを担う国際ビジネス部で活躍する 4 人の社員を通して、その実態を探る。

国際ビジネス部

井上 篤史

2001年入社

電気技術者として入社。電車線設備の設計や全社的な輸送改善施策、南北線8両化の策定に加え、全く畑の違う不動産事業にも携わり、2019年から国際ビジネス部に在籍。現在課長を務める。

国際ビジネス部

齋藤 英生

2004年入社

営業部旅客課、広報部宣伝課などを経て、2016年より国際ビジネス部勤務。2019年から4年間、外部に出向しフランス・パリに駐在。2023年から再度国際ビジネス部に在籍。

国際ビジネス部

中村 大樹

2009 年入社

車両の設計業務やプロジェクト管理でキャリアを積み、国土交通省派遣なども経て2022年に国際ビジネス部に異動。2023年よりフィリピンに赴任中。

国際ビジネス部

脇田 和慶

2012年入社

入社後、人事部で労務管理に携わり、5 年目から日本民営鉄道協会に出向。帰任後、オリンピック・パラリンピック推進室を経て、2022年から国際ビジネス部に在籍。

海外に赴任し、その国の鉄道インフラ構築に貢献

日本の国内市場が成熟しつつあるいま、さらなる成長の機会を求めて、多くの企業がグローバルな事業展開を図っている。東京メトロも例外ではなく、国際ビジネス部で課長を務める井上はこう語る。

「東京メトロが推進している海外ビジネスは、大きく3つあります。1つは、JICA(独立行政法人 国際協力機構)や各国政府発注の契約を受注し、鉄道建設・運営に向けた調査設計などを行う『海外技術コンサルティング事業』。2つ目は、海外の鉄道事業者の方々に向けて、2021年度に開講した『Tokyo Metro Academy』などを通して技術研修を行う『海外鉄道研修事業』。この2つはすでに実績があり、今後も着実に進めていく必要があると考えています。そして3つ目が非常にチャレンジングですが、前述の事業に比べより収益率が高い『O&M(オペレーション&メンテンナンス)事業』。これは、海外の鉄道の運行管理やメンテナンスを受託するビジネスであり、我々はこのO&M事業に大きなチャンスを見出し、これからさらに注力していく方針です。」

国際ビジネス部では、日本を飛び出して海外に赴任している社員もいる。海外技術コンサルティング事業に関わる中村もその一人だ。彼はいま、フィリピンのマニラに駐在している。「フィリピン政府からの業務で、首都マニラでの地下鉄建設プロジェクトの施工管理にあたっています。政府関係者や、協業している外国のコンサルタントと討議しながら、プロジェクトを成功させるべく奮闘しています。」

中村にとっては初の海外赴任。異文化の中で日々悪戦苦闘していると言う。「フィリピン政府との業務では、上意下達の風土を感じることもあり、時として非効率な考え方がそのまま現場に伝わることもあり、それらを修正して最善の選択ができるよう導いていくことも私の役割。日本で培った車両プロジェクト管理の知見をもとに意見を出し、私の提案がスムーズに受け入れられ、それがフィリピンの鉄道インフラづくりに貢献していく。そう実感できる瞬間がたびたびあり、とてもやりがいを感じています。」

O&M 事業で、海外の強力なライバルと戦っていく

そして、これからの東京メトロの海外ビジネスの鍵を握る O&M 事業に携わっているのが、井上に加え齋藤と脇田だ。欧州や豪州では、「上下分離方式」と呼ばれる形態での鉄道運営が一般的になっている。すなわち、鉄道のインフラ保有者と、その上で鉄道を運行しインフラのメンテナンスを行う事業者を分け、鉄道の運行とメンテナンスは入札によって自由に参入できる形になっている。東京メトロは、そのスキームで運行とメンテナンスの契約を獲得し、新たな海外ビジネスの柱にする戦略を掲げている。

井上、齋藤、脇田はいま、案件獲得のための情報収集や入札に向けた資料作成などに忙しい毎日を送っている。齋藤はこの取り組みの難しさをこう語る。

「フランス駐在時にあらためて気づかされたのは、日本では当然だと思っている鉄道会社の施策やサービス水準が、欧州ではけっしてスタンダードではないということ。たとえば乗車案内も日本に比べると不親切で、整列乗車などの慣習はありませんし、駅構内にトイレがないなど施設もきわめて質素な場合が多い。だからといってサービスを向上させればいいかと言えば、その分コストがかかるので、それは求められていないかもしれない。その国の事情や文化に合わせて鉄道運行のあり方を考えることが重要であり、そこに難しさを覚えています。」

脇田もまた、海外でO&Mビジネスの実情を目の当たりにし、意欲を新たにしていると言う。

「先日、中東のドバイへ研修に赴きました。ドバイでは、O&M事業で実績のあるフランスのケオリス社、三菱重工業株式会社及び三菱商事株式会社がコンソーシアムを組んで、都市型鉄道の『ドバイメトロ』の運行を担っています。本研修はO&M事業マネジメントの実態を学ぶ絶好の機会となりました。現地商習慣、風土及び文化に的確に適応した鉄道運行を実現していることに、感銘を受けたとともに、O&M事業への参画を目指す当社の進むべき姿が明確になり、いっそう気合が入りましたね。」

東京メトロの海外ビジネスは、まさにこれからが本番

現状、東京メトロではまだ海外O&M案件の獲得には至っていない。東京メトロ初となる偉業を成し遂げるべく、井上をはじめとする担当メンバーたちは奔走し、海外にもたびたび出張している。井上も欧州から帰国したばかりだと言う。

「O&M事業は、案件を獲得すれば10年単位で鉄道運行を担うことになり、きわめて規模の大きなビジネス。東京メトロの業績に与えるインパクトも大きい。今は産みの苦しみを味わっていますが、一つ案件を獲得して実績を示せば、社内外から注目され、一気に事業が加速していくと考えています。」

脇田も、東京メトロが培ってきた強みを活かして事業に臨めば、十分に勝算があると語る。

「東京メトロは 100 年近くにわたって、世界屈指の都市である東京の鉄道ネットワークを運営してきた歴史と実績があります。O&M 事業は長期に及ぶため、たとえばドバイメトロのような新興の鉄道事業者が直面したことがないようなトラブルが起きた際には、我々の過去の経験から的確に対応できると自負しています。鉄道運行に関する豊富な技術とノウハウを当社の強みとして、世界と勝負していきたいですね。」

そして、その技術やノウハウを存分に発揮する上では、東京メトロのチーム力も強みになると齋藤は言う。

「東京メトロは大企業に映るかもしれませんが、その中枢はコンパクトな組織であり、部門間の連携も強い。どの部門のメンバーもほぼ顔見知りで、意思の疎通がスムーズ。O&M 事業は他部門との協業が不可欠であり、東京メトロの叡智を結集して案件を獲得したいと思っています。」

東京メトロの海外ビジネスは、まさにこれからが本番だ。フィリピンにいる中村も「東京メトロは海外ビジネスにチャレンジしたい人にとってはチャンスにあふれた場だ」と言う。最後に、井上がこう締めくくってくれた。

「海外でのO&M事業は、グローバル展開している強力な競合はいるものの、勝てるチャンスは大いにあると我々は思っています。そこに東京メトロはこれから全力で挑もうとしていて、詳細は申しあげられませんが現在進行中の案件も複数あり、入札に向けた準備を進めています。机上で分析だけをしているわけではなく、実際に協業先とも連携をして事業に参画する準備をしていて、今が一番面白いタイミングだと思います。東京メトロで海外ビジネスを担うにあたって、学生の皆さんや社内の後輩達は英語力を真っ先に気にしますが、英語なんて勉強すれば何とでもなるんです。私も国際ビジネス部に異動するまで、英語はまったく話せませんでしたが、英語など単なるコミュニケーションのツールに過ぎず、意欲さえあれば誰でも身に付けられる。それよりも『東京メトロの技術やノウハウで世界に貢献したい』とか『未知の海外ビジネスを自分の手で切り拓いていきたい』とか、『後輩や子どもたちに誇れる仕事をつくりたい』というような志や熱意にあふれた方を、ぜひ仲間としてお迎えしたいですね。」

※記載内容は取材当時のものです

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