全社一丸となって

難プロジェクトを成し遂げる

お客様を安全かつ快適に目的地へお送りすることは、鉄道事業者の変わらぬ使命である。東京メトロにおいても、輸送改善施策や駅改装等による輸送品質向上のための取り組みが各所で進められており、南砂町駅の線路・ホーム増設もその取り組みの中の一つだ。2024年5月には、同駅にて2日間にわたって線路切替の大規模な工事が実施された。このプロジェクトに様々な立場から関わり、工事の成功に貢献した若手社員たちを追う。

改良建設部 第一工事事務所

髙橋 正也

2019年入社

入社後は改良建設部の設計課に配属。営業線改良工事の設計・調整や、新線建設における都市計画手続きなどに携わった後、2023年から第一工事事務所に配属となり、南砂町駅改良プロジェクトに参画。工事全体の施工内容や作業工程の調整、対外折衝を担当。

工務部 建築計画課

近藤 雅貴

2021年入社

入社後は工務部の建築工事所に配属。2022年7月から南砂町駅改良プロジェクトに参画し、新駅舎全体の建築工事の調整や監理業務を担当。2024年10月より、建築施設物の保全を担う工務部建築計画課に所属。

営業部 旅客課

榎本 紗英

2022年入社

入社後は営業部の旅客課に配属。遅延対策などのサービス向上施策を担い、2023年末より南砂町駅改良プロジェクトに参画。第一回線路切替工事のお客様へのPRや現地オペレーションなどを担当。

東西線の輸送改善に向けて、南砂町駅をまるごと作り替える

東西線は、東京都心を文字通り東西に貫く、東京メトロの主要路線の一つだ。長年に渡って国内でワーストレベルの混雑率を記録しており、かねてより輸送改善が大きな課題であった。その解決に向けて2010年代半ばより東西線輸送改善が会社における重要施策として掲げられた。

中でも大きな問題を抱えていたのが東京東部の南砂町駅だった。南砂町駅は近年、周辺地域の住宅開発等が進み、乗降人員が大きく増加していた。しかし、駅内は開業当初からの古い構造のままであり、かつ構造的にホーム端部にお客様が集中する造りとなっていたため、乗降人員の増加に対して十分に対応しきれず、ラッシュのピーク時にはホーム上が大混雑してしまう状態であった。そのため、お客様がスムーズに乗降できず、駅の停車時間が延びて電車がたびたび遅延。こうした状況を解消するべく、南砂町駅を抜本的に改良する計画が立てられ、一大プロジェクトがスタートした。このプロジェクトに関わった改良建設部の髙橋は語る。

「今回の東西線輸送改善施策の目玉である南砂町駅改良工事は、地下構内を拡大して1面2線(島式ホーム:一つのホームの両側に線路を配置する形式)から2面3線(複合島式ホーム:二つのホームを挟んで三本の線路を配置する形式)に変更し、相互発着可能な構造とするとともに、駅の移動設備を最適化することが大きな目的でした。新たなホームを増設し、線路を一本増やすことで、電車がホームに停車していても、後続の電車がもう一方の線路に入ることができ、交互に発着できるようになります。これによって駅の手前における渋滞を解消し、遅延吸収機能を備えた駅となります。また、ホームの面積が広がり、昇降設備の配置も最適化されるため、お客様の安全性も向上します。たいへん意義のある施策であり、社内でもきわめて重要なプロジェクトです。」

髙橋が南砂町駅のプロジェクトに参加したのは、2023年の春。彼が所属する改良建設部は、駅の基礎となる躯体やホームなどの土木構造物の計画・設計・施工を担い、改良工事の司令塔となるセクションだ。すでに躯体やホームの増設は順調に進捗しており、工事最終完成までに合計3回の線路切替工事を実施する計画であった。彼を待ち受けていたのは、最初の大きな山場となる一回目の線路切替工事。それを監督するチームの一員としてプロジェクトにアサインされた。

「このプロジェクトの担当になった時点で、一回目の線路切替に向けた土木工事は概ね完了していました。私に託されたミッションは、線路切替工事当日の詳細な施工計画を立案し検証を加え、社内の関係部署と施工内容や作業工程の調整を行うこと、さらに第一回線路切替工事以降の工事についても、同様に社内の関係部署と調整していくことでした。また、切替工事の実施にあたって旅客輸送上での影響の少ない土曜日曜の2日間、南砂町の両隣の東陽町駅と西葛西駅の間を運休することから、行政や地域住民の方々へご理解いただくためにご説明にもあたらなければならない。こうして切替工事を無事完了させるために、当日まで関係各所との折衝に奔走しました。」

DXの導入、綿密な広報、それぞれの立場でプロジェクトを支える

今回の南砂町駅改良プロジェクトでは、古い構造であった駅舎のリニューアルも図られた。その建築工事の監理に携わったのが、工務部の近藤である。彼は、入社後、最初に配属された工務部でこのプロジェクトに関わることになった。

「この南砂町駅のプロジェクトは、新しい地下駅をまるまる一つ作り上げるような開発であり、入社早々そんな経験ができることに嬉しく思いましたが、新人の私がプロジェクトに貢献できるのか不安もありました。でも、チームの先輩と共に、駅舎内の建築施設の仕様や納まりについて工事業者の方々と打ち合わせを行い、さらに法令にもとづいて自治体や消防との協議を進めるなど、建築物をつくるために必要なプロセスを一通り学ぶことができ、短期間でとても成長できました。」

そして、近藤はこのプロジェクトにおいて、東京メトロでは初となるシステムの構築に挑むことになる。それは工程管理をデジタル化することだ。

「東京メトロで過去に実施してきた線路切替工事では、紙に印刷した工程表を使って当日の進捗を管理していました。しかし、刻一刻と変わる施工情報を正確に更新し、それを関係者にリアルタイムに共有するのが非常に難しく、社内でも課題になっていました。そこでこのプロジェクトでは、工程表をデジタル化してクラウドストレージ上に格納し、工事に関わる方々が共同で閲覧、編集できるシステムを導入しようと企画。私は学生時代にITエンジニアとして働いていた経験があり、上司からシステムの設計を託されたのです。」

このシステムは数百人の社内関係者が使用することになるため、簡単に進捗情報を更新できる機能や、ビジュアルデザインを工夫することで、誰にとっても分かりやすいシステムとなるように知恵を絞った。そして、数百名の工事参加者が一堂に集まって当日実施する作業の最終確認を行う会議にて、彼は壇上に立ってシステムの操作方法を説明。近藤はこう振り返る。

「プレッシャーもありましたが、自分が考えたシステムがプロジェクトの成功につながることに大きな責任を感じて、当時は懸命に業務に取り組んでいました。」

一方、南砂町駅改良プロジェクトで活躍したのは、髙橋や近藤のような技術者ばかりではない。事務系の社員も関わっており、営業部の若手の榎本もその一人だ。彼女は、線路切替工事の半年ほど前にプロジェクトにアサインされ、お客様に向けてのPRに奮闘した。

「南砂町駅の線路切替工事にあたっては、両隣の東陽町駅と西葛西駅の間を丸2日間、運休する計画でした。まずは東西線を利用されるお客様にそのことをしっかりと周知しなければならず、運休をお知らせする特設サイトやポスターを広告代理店と協業しながら制作。事業者からの一方的な通告にならないよう、お客様の視点に立って丁寧にお伝えすることを心がけてPRを図っていきました。」

東京メトロだからこそ味わえる、大きな達成感がある

線路切替工事当日に向けて、榎本は迂回の呼びかけにも腐心したという。

「運休する東陽町駅と西葛西駅の間で代行バスを設けましたが、ご乗車いただけるお客様の数に限りがあるため、できるだけ迂回していただく必要がありました。そのため、東西線全駅分の主要駅までの迂回ルートや、東西線周辺の鉄道事業者の路線を利用いただいて都心に出るルートを細かく探索して、特設サイトやポスターで提示。ほかの鉄道事業者とも折衝してご協力を仰ぎ、工事当日に備えました。」

そして2024年の5月11日から12日にかけて、南砂町駅の線路切替工事は実施された。近藤は、数百名の作業員が一斉に工事にあたる現場で、新たなホームの使用開始に向けた建築設備の切替の指揮を執り、髙橋は駅近くに設けられた実施本部に常駐し、現場に備えつけた多くのカメラを通じて現場をモニタリングしながら工事の進捗を確認した。そして榎本は、代行バスの乗り場に自ら赴き、お客様へのご案内などに力を尽くした。三人三様の立場でこのプロジェクトを支え、無事に工事は完了した。髙橋は述懐する。

「近藤君が起ち上げた工程管理のシステムによって、実施本部と現場で情報をやりとりする負荷が大きく減ってロスなく作業が進み、それが工事成功の大きな要因の一つだったと思います。あの2日間は本当に大変でしたが、予定していたすべての作業が完了し、月曜早朝に新たに切り替えられた線路に始発電車が進入してくるのをモニターで確認した時は、本部内で歓声が上がりました。こうして関係者の皆さんと達成感を分かち合う瞬間が、やはりプロジェクトの大きな醍醐味です。」

近藤も工事を無事に終えた時、大きな感慨に浸ったという。

「デジタル化した工程管理表には、実施しなければならない500以上の作業が表示され、それが完了するたびに1つずつグレーアウトしていくのですが、その最後が『切替工事実施本部解散』という項目だったんですね。月曜日の朝、情報が更新され、その項目がグレーに変わった時は、これまで味わったことのない達成感を覚えましたし、また新たなプロジェクトに挑戦したいという意欲が湧いてきました。」

現在も南砂町駅改良工事は進行中だ。工事最終完成までにさらに2回の線路切替が控えており、髙橋は引き続きこのプロジェクトに関わっている。今回の一件で髙橋は、各部署が互いを思いやって連携し、一体となって課題解決を図っていく東京メトロの文化をあらためて強く感じるとともに、彼自身も難しい折衝を重ねて物事を前進させていくという、どんなプロジェクトにおいても求められる調整能力が大いに磨かれたと感じている。これをもとに事業全体をマネジメントできる人材を目指していきたいと語る。

若手の二人もさらに志を高くしている。榎本の目標は、東京メトロの技術やノウハウの海外展開に携わることであり、今回のプロジェクトで世の中に与える影響を考慮しながら自ら施策を動かした経験は、将来に向けて大きな糧になったと言う。近藤もまた、今回のプロジェクトで技術者としての自信を深め、これから本格的にスタートする新線建設プロジェクトに関わりたいと意気込む。彼は「新線をつくるという社会に大きなインパクトを与える仕事ができるチャンスにあふれているのが、これから東京メトロでキャリアを積む大きな魅力だ」と熱く訴える。こうした若い力を未来に向けたエネルギーに変えて、東京メトロはさらに進化を続けていく。

※記載内容は取材当時のものです

一覧に戻る